アールの不動産連載小説 9
順番に幹部たちによる報告が始まった。他の部署やエリア店の発表が続いていたが、いつ自分の順番が回ってくるのか不安で仕方なかったので、人の話はほとんど耳に入らなかった。俺は目の前に置いてある、神谷さんが作ってくれたレポートに何度も目をとおした。実際のところ、ほとんど成果はなく何を報告すればいいのかわからなかった。会議が始まって40分ほど経った頃だろうか。
「それでは次に、新設店の報告をしてもらいましょう」
司会の幹部が出席者の顔を見渡した。俺は生唾をごくりと飲みこんだ。心臓の鼓動がより一層早くなっていった。
「では、まず2号店の報告をしてもらいましょう。担当者はお願いします」
俺はその場に立ち上がった。
「2号店の店長をしております藤森と申します。本日はこのような場に参加させていただきまして光栄に存じております」
俺は何を言っているんだろうか。前に座っていた2.3人の幹部がクスリと笑った。
「では、報告させていただきます」
と言ったものの、成績は限りなくゼロに近かったため、実際に来店した客の詳細と反応を神谷さんのレポートどおりに事細かくしゃべった。最後に来店した猫といっしょに暮らせる部屋を探している女性客の話をしゃべり終わると一人の幹部がイライラしながら口を挟んだ。
「君、この会議は来店客の詳細を話す場じゃないんだよ。だいたい君みたいな者がなんでこの重要な会議に出席してるんだ!誰に出席しろと言われたんだ!」
「それはあの・・・」
俺は頭の中が真っ白になった。
「ご苦労さま。出席するように言ったのはわたしだ」
それまで黙って報告を聞いていた社長が突然口を開いた。その場にいた全員が驚いた顔で一斉に社長のほうを見た。
「まあ、あの立地だ。そう簡単に客も来ないだろう。それよりも藤森君だったかな、最後に来店した猫といっしょに暮らす部屋を探していた女性客の部屋はその後見つかったかね?」
「いいえ、まだです。ペットが住める部屋を扱っている不動産屋をあたってはいるのですが、猫が妊娠していることもあって嫌がるオーナーが多くてなかなか決まりません。それに本人からもいろいろと注文が多くて、苦戦しています」
俺は緊張しながらも正直に語った。
「そうか。それなら店の裏にあるアパートをすすめてみたらどうかね」
「は?」
俺は一瞬、社長がどのアパートのことを言っているのかよくわからなかった。
続く・・・
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