アールの不動産屋連載小説 12
物事はストーリーさえ決まればどんどん先に進むというけれど、それは本当だと思った。あの日、神谷さんから築古のアパートを紹介された猫女性は、店に戻るとさっそく入居したいと言い出し、書類の手続きを進めた。高齢な両親しかいない猫女性の連帯保証人になる人はいなかったので、保証会社へ申し込みをした。保証会社も収入があまり安定していない人や勤務先が小さい会社だと信用の問題で断るケースも多々あった。保証会社が賃料を代わりに払うのだから最初からリスクの大きい人の保証はしないというのは当然だ。猫女性の場合は収入もさほど高くなく、なおかつ安定していなかったので、正直、断られると思っていた。仮に保証会社がOkしても、契約時に相場で約1ケ月分の賃料相当額を保証会社に払い、かつ1年ごとに1万円といった更新料のようなものを払わないといけない。猫女性にとっては、リスクも大きいのではないかと思っていた。保証会社に断られたお陰で賃貸契約は結べないということがわかり、アパートを借りることをあきらめてくれるかもしれないと密かに期待していた。だから神谷さんから保証会社の審査が通ったと聞いた時は信じられなかった。保証会社への手続きは全部神谷さんがやってくれたので俺はノータッチだった。 その後は遠方にいるオーナーと郵送でやりとりをして、無事に賃貸契約を結んだ。
あんなに気むずかしい顔をしていた猫女性も、今日という引っ越しの日を無事に迎えることができたせいか、今まで見たことのないような晴れやかな表情をしていた。
「無事に引っ越しが終わりました。お世話になりました」
猫女性は、菓子おりを持って店にやってきた。
「神谷さんはいらっしゃいますか?」
猫女性は店の中に目をやりながら言った。
「今日はお休みですが」
そう言うと猫女性の顔が曇った。
「あの〜ちょっとお願いしたいことがありまして」
「何か?」
俺は猫女性の顔を見た。
「実は、昨晩ちょっと腰を痛めてしまいまして・・・・引っ越しの荷物を動かそうにも大変でして。藤森さん、力ありそうですし、ちょっと手伝ってもらえませんか?」
猫女性は上目使いで俺を見た。
「いいですよ」
まあ、仕方ない。俺は心の中でつぶやいた。
俺は猫女性といっしょに店の裏にある築古アパートに向かった。1階の猫女性の部屋に向かうとした時、そこには、同じアパートの2階から階段で降りてきた男性の後ろ姿があった。俺はその後ろ姿にどこか見覚えがあった。
それは、以前出席した会議で俺にキレたあの常務の後ろ姿に似ていた。
つづく・・・
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