◆三菱地所(株)執行役社長 吉田淳一氏
令和4年地価公示は、全国全用途平均・住宅地・商業地のいずれも2年ぶりに上昇に転じた。新型コロナウイルス感染症の影響が徐々に緩和され、昨年からは全体的に回復傾向が見られた。
今回の地価公示では景況感の改善が見られるものの、足元の緊迫する国際情勢により、経済情勢含めた先行きは不透明な状況にある。不動産市況や社会・生活への影響を注視しつつ、成長に向けた投資を継続していきたい。
オフィスは、一般的に「毎日同じ人が集まって作業をする場」であったが、多様化するワークスタイル、ライフスタイルへの対応がテナントニーズに加わってきている。
4月からは「フレキシブル・ワークスペース事業部」を新規設置し、オフィス・ラウンジ等のワークスペースの整備や、複合的に利用できるサービスの開発・提供など、ハードとソフトの両面から、多様な働き方を支える商品・サービスを拡充していく。
住宅は、都心物件の人気が続く一方、テレワーク需要による郊外の広い物件の引き合いも継続して旺盛である。名古屋駅徒歩圏の大規模マンション「ザ・パークハウス名古屋」、ZEH-M Ready基準に適合した「ザ・パークハウス新浦安マリンヴィラ」、木材の持続可能性に配慮した「ザ・パークハウス高輪松ヶ丘」などの販売が好調。
住宅においてもライフスタイルの多様化によって、ワークスペースの設置や気候変動対策の取り組みのニーズが強まるなど、物件検討時に重視する価値や優先順位も多様になっている。
また当社では、DXで目指すまちづくりのビジョンを示した「三菱地所デジタルビジョン」を策定し、リアルとデジタルが一体となったまちづくりを推進している。5Gを必須の社会基盤と位置づけ、丸の内エリア全域の5G化を進めているほか、ロボットを活用しやすくする「ロボットフレンドリー」な環境づくりにも取り組む。
さらに脱炭素社会の実現に向けた取り組みにも、ESG先進企業として引き続き注力していく。丸の内エリアや主要都市における保有ビルの再エネ電力への切り替えといった継続した活動により、従来の中間目標を前倒しで達成見込みとなったため、先般、CO2等温室効果ガスの削減目標とRE100達成目標を新たに制定した。具体的には、2050年までにCO2等温室効果ガスネットゼロ達成のほか、2025年度再エネ導入100%達成を目指す。
今後も事業活動を通じて持続可能な社会の実現に貢献するとともに、空間やサービスに求められる本質的な価値を追求し、価値創造を図っていきたい。
◆住友不動産(株)代表取締役社長 仁島浩順氏
新型コロナによる経済活動への制限が緩和に向かうものの、国内景気の回復は見通しにくい情勢だ。足元では資源高や供給網混乱による物価への影響など、先行きの不透明感が増している。
こうした中、商業地では、生活利便の店舗などで需要が一時持ち直す動きも見られたが、ホテルや飲食店舗は引き続き低迷している。東京のオフィスビル市況も、業績堅調な企業による新規需要が増えつつあるものの、一進一退の情勢が続いている。
住宅地は、引き続き低金利環境や住宅取得支援策などが下支えとなり、希少性の高い都心や交通至便な地域を中心に需要が堅調に推移している。
◆東急不動産(株)代表取締役社長 岡田正志氏
今回の地価公示では全国の全用途平均は2年ぶりに回復に転じた。昨年は新型コロナウイルスの影響で都心の商業地を中心に振るわず、全国の全用途平均は6年ぶりに前年を下回っていたが、ワクチン接種者の増加による人流の回復や、テレワークの浸透による住宅への関心の高まりなどが背景にある。ただ、ロシア・ウクライナ情勢による世界経済の先行き不安、世界情勢の不安定化やコロナ禍の長期化によるインバウンド需要回復の遅れ、原油や資源高による国内景気への悪影響など、不安定要素もあり、当面は地価の動向を注視していく必要がある。
住宅地については都市中心部の希少性の高い立地や、交通利便性等に優れた周辺地域では地価上昇が継続するなど根強い需要がある。当社ではコロナ禍の中、テレワークやワーケーションなどの「新しい働き方」が広がっているのに着目し、分譲マンションでは共用部に個室型のワークスペースなどを設けた「ブランズタワー豊洲」など、賃貸住宅では職住一体型のコワーキングサービス付きの「BPRレジデンス大阪本町Q」などを展開するなど、今後の「新しい生活様式」を見据え、消費者から求められる住まいを検討・開発している。
商業地では都市近郊部では店舗などの需要が高まり、上昇に転じた地点が数多く見られるものの、都心3区や大阪市中心部では弱含みで推移している地点も目立つ。特に東京・銀座や大阪・心斎橋など国内の代表的な地区での地価下落はインバウンド需要で地価が過熱気味だった場所がコロナ禍による需要喪失で修正されている一時的な現象と捉えており、「アフターコロナ」でインバウンドが復活すれば、都市中心部の地価は回復するとみている。また、近年、住宅地や商業地の地価上昇地点の上位に名を連ねている北海道・倶知安町では、当社グループはリゾート関連事業を展開しており、これまでインバウンド効果で地価が上昇を続けていたが、今回のコロナ禍でインバウンド需要が消失しても大きく地価が上昇した地点があった。これは「ニセコ」というこれまで培ってきた高いブランド力が高い評価を受け続けているためとみている。
オフィス関連ではテレワークなどの新しい働き方の普及で、オフィスを縮小する企業が出るなど、東京都心の代表的なオフィス街で地価が下落するなど影響が出ている。ただ、当社が本社を置く東京・渋谷は街の多様性などを評価してIT関連など大小の成長企業が集積しており、オフィス需要は堅調に推移している。2023年度竣工予定の「渋谷駅桜丘口地区第一種市街地再開発事業」など渋谷駅周辺を含む「広域渋谷圏」で、さらにオフィス空間を開発、提供していく方針だ。また、当社の幅広い事業領域を活かし、センターオフィスとサテライトオフィス、ワーケーションなどを組み合わせた働き方を提唱するトータルソリューション「GREEN WORK STYLE 未来の自分をつくる働き方」を始めるなど、働き方の変化に合わせた新サービスも始めた。
中長期的な不動産市場については、足元では国際経済情勢などのマクロ要因やコロナ禍の今後の動向などを注視する必要があるが、不動産市況は回復基調をたどるだろう。中長期的には少子高齢化による単身世帯の増加や空き家問題、「働き方改革」によるオフィス環境の変化等、環境の変化が続くが、地球環境への国内外の意識が高まるなか、今後の不動産市場では「環境」が大きなテーマになるとみている。当社では1月末現在、全国に79ヵ所、定格容量で1,306メガワットの再生可能エネルギーの発電規模を有しており、これは原発一基分を超える国内有数の規模となっている。今年度は「広域渋谷圏」のビルなどで使う電気を再エネ化し、2025年までには事業活動で使う全ての電気を再エネに切り替える「RE100」の目標を達成する方針だ。ZEBやZEHなど環境に配慮したオフィスビルやマンションなどの開発も進めていく。すでにオフィス市場では外資系を中心に「再生可能エネルギーを使えないビルには入居しない」という企業も出てきている。当社はハードだけでなく当社グループの持つ幅広い事業領域を生かしたソフトサービスという付加価値を組み合わせて事業展開を進めていくとともに、「環境」対応を積極的に進めていく方針だ。
◆野村不動産(株)代表取締役社長 松尾大作氏
今回の地価公示は、全国平均で全用途平均・住宅地・商業地のいずれも、2年ぶりに上昇に転じた。住宅地については3大都市圏・地方圏のいずれも2年ぶりに上昇に転じ、商業地についても、地方四市では上昇率が拡大、東京圏・名古屋圏で上昇に転じるなど、新型コロナウイルス感染症の影響が徐々に緩和されるなか全体的に昨年から回復が進んだと考えられる。
住宅市場に関しては、需要が引き続き堅調である一方で供給が限られており、高値安定の状況が続いている。共働き世帯の増加やテレワークの浸透等による住まいへの関心の高さから、旺盛な需要は当面継続するだろう。顧客のニーズは多様化しており、用地取得も都心・郊外や住宅地・商業地を問わず幅広く行う必要がある。ただし、用地取得競争は激しくなっており、このような環境下では以前にも増して再開発を含めた多角的な開発手法が必要となる。また中古住宅の売買についても、グループ会社における今期業績を上方修正するなど、強い需要が継続している。ただし、金利の上昇、住宅ローン控除の縮小、原油や資材の高騰に伴う建築費の上昇については、注視しておく必要がある。
オフィス市場に関しては、市場全体で稼働率が下げ止まってきた一方、賃料はまだ下落傾向にある。好調な企業業績を受けオフィスの拡張移転を選択するケースも増えているが、働き方のニーズは多様化しており、オフィスに集まる意義やオフィスが生み出す価値を再定義し、フレキシブルな働き方を実現するオフィスやサービスの提供を続けていく。
商業・ホテル市場に関しては、コロナの影響により厳しい事業環境が続いているが、商業施設は日用品を中心とした地域密着型を中心に、ホテルは宿泊に留まらない新たな使い方を提示するなど、事業としての体力を蓄えながら需要の回復に備える。
物流市場に関しては、eコマースニーズのさらなる拡大を踏まえ、コロナ下においても地価は上がり続けているが、旺盛な投資意欲はなお継続すると考える。
社会や人々の価値観はコロナ禍を経て大きく変化しており、不動産関連商品・サービスも同時に変化がしてゆく必要がある。当社は、グループ全体でDXやサステナビリティの取組みを強力に推進しながら、これまで同様、お客様に寄り添い、ニーズを的確に捉えた独創性の高い商品・サービスの提供を続ける。
地価公示は、不動産の取引動向や中期的な展望を反映したものであり、様々なマクロ指標と合わせて今後も重要指標のひとつとして注視していく。
◆東京建物(株)代表取締役 社長執行役員 野村 均氏
今年発表された地価公示は、新型コロナウイルス感染症の影響が継続しているものの、全国全用途平均で回復基調がみられた。利便性の高い分譲マンションに牽引され、住宅需要が堅調に推移しているほか、再開発事業の進展、EC拡大に伴う物流施設需要の増大、投資家の旺盛な投資意欲等が背景にあると考えられる。
宿泊施設や飲食店舗等では特に新型コロナウイルス感染症による影響が大きいが、主要都市部等エリアによっては収益性も回復傾向にある。一方で、一部都心部ではオフィス需要の減退もみられ、オフィスの空室率が上昇している。
現在、変異株拡大や地政学的リスク、原油・原材料費の上昇、金利の先高懸念の高まりなど、景気の先行き不透明感が増しつつあり、地価の動向も引き続き注視が必要と思われる。
(商業地)
新型コロナウイルス感染症の収束は見通せていないが、宿泊施設や飲食店舗では、ワクチンの普及等により昨年と比較して人流の回復も見られ、落ち着きを取り戻しつつあると感じている。
オフィスについては、テレワーク導入やコスト削減を理由に統合・縮小を図る企業が出てきている一方、リアルでのコミュニケーションの重要性も再認識されている。今後、アフターコロナを見据えたオフィスのあり方についての検討が本格化するものとみている。また、働き方の多様化により、シェアオフィスといった需要の高まりがみられる分野もあり、当社は社会の変容に合わせたオフィスの商品企画を今後も追求する必要があると考えている。
(住宅地)
分譲マンションは、人々の働き方やライフスタイル、価値観の変化などによりニーズの幅が広がっており、低金利傾向が持続していることも作用し、都心部や交通利便性の高いエリア、住環境が良好なエリアを中心に、希少性や優れた商品企画を備えた分譲マンションの販売は引き続き堅調に推移している。
当社が昨年11 月に販売を開始した関西のフラッグシッププロジェクトである「Brillia Tower 堂島」(総住戸数463戸、2024年5月竣工予定)は、世界有数のラグジュアリーホテル「Four SeasonsHotel」と住宅が一体となっている希少性や、JR「大阪」駅徒歩圏という立地等が評価され、大きな反響を呼んでいる。
昨今の経済情勢により、今後の景気動向は予断を許さないが、当社はこれからもお客様のニーズを先取りし、その時代に合った商品・サービスの提供を通じて社会課題の解決を図るとともに、安全・安心・快適なまちづくりを目指してまいりたい。
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