2010/07/31 11:50:09

減額 次の居場所

嘉子の創作「減額」の続きです。


朝日を浴びて、尾宅は、管理会社の関連会社の新しいデスクに座っていました。仲間の情報を漏洩した見返りに得た、新しい職場のスタートです。給料、名誉、そのほかの好条件のためにした行動に、尾宅はいささかの迷いもありませんでした。


「カネと名誉さえあれば、オレの人生は勝ちを約束されたも同然さ。立場さえ上になれば゜、誰だってオレにひれ伏し、おもいのままに動かせる。こんな楽しいことはないさ。それにしても簡単だったよな。あの住民連中は全くオレの行動に気付きもしなかった。お人よしはほめ言葉じゃないぜ。」


初日の第一番に、早速、上司に呼ばれました。仕事の内容は・・・。えっ。一日に400軒の住宅に個別でピンポンを押して、訪問を続け営業を掛けるローラー作戦を毎日・・・。しかもGPS機能付きの機械で、歩いた距離と現在位置をその都度監視されている方法。日報もどの家で何を話したかを克明に記録しなければなりません。昔ながらの方法で喫茶店でサボることなんて、まったく出来ません。


「約束と違うじゃないか!!」 尾宅は上司に抗議しました。すると、上司は、待遇も地位も条件どおりだろう。営業の手法とノルマの有無について説明をしなかっただけだと取り合いません。


肩書きはえらくても、内容はヒラ社員の新人さん以上に過酷なものでした。尾宅は炎天下のアスファルトが焼け付く夏の街に放り出され、ストップウォッチを押され営業に放たれました。名刺への肩書きがえらそうなほうがお客様への印象が良いので、この会社では多くの社員に肩書きがついていたことを、入社後に他の営業マンから知らされました。


クーラーの下で、ふんぞり返るわが身をイメージしていた新たな職場で待っていた現実。それは高給をもらっても足りないほど肉体と精神に過酷な営業活動と、ノルマの崖っぷちに立つ不動産営業の現場だったのです。


尾宅の胸に去来するものはなんだったのでしょうか。仲間の情報を売り、今までのキャリアを積んだ職場をあっさり捨てまで選び、得た、今の居場所。うまい話には落とし穴があることが多い・・・。そんな普通の注意に目が向かないほどの好条件を提示されて、注意深く仕事内容を確認しなかったことを反省する心が、果たして尾宅にあるのでしょうか?


尾宅はギラつく夏の太陽を見上げて思いました。「みてろよ。新しい上司の尻尾をつかんで、情報を売ってやる・・・。オレがのし上がるのは時間の問題さ。」尾宅は尾宅なりの懲りない処世術があるらしいですね。





2010/07/30 14:57:55

減額 判断

嘉子の創作シリーズ「減額」続きです。


ケイジがドアの方向へ歩いていくのをみかけた法子さんは、なんとなく追いかけ近づきました。ケイジが振り向き、法子さんに「シーッ」というしぐさをしました。視線の方向には携帯電話で話している尾宅の姿がありました。ただならぬ勘が働き、法子さんとケイジは、そっと聞き耳を立てました。


すると、ケイジを悪し様に愚弄する言葉、そして、呼出状について、アパートの住民が今晩、談話室内で何を話していたのかを通報する内容の話が聞こえました。電話の相手は、管理会社・菅です。尾宅の声しか聞こえない法子さんとケイジには、相手が特定できなくても、情報を管理会社側の人間に売っている・・・。今のアパート住民の様子を話してしまっていることはわかりました。


ケイジと法子さんは、その場をそっと離れると、今後の尾宅への対応を考えるることにしました。歴史の中ではっきりしている事実。それは、仲間を裏切り自分の利益だけを求めた人間に、決して幸せは来ないという事実です。


今すぐに、尾宅を住民みんなで問い詰めることは必要だろうか。いいえ。大きな問題。ここはやはり管理会社の不可解な請求書と、答えにならない呼出状について考えることが先決です。常に前向きな法子さんとケイジは細かな、住民どおしのいざこざ程度のことで大きな本論を見失うようなことはありません。


尾宅の前では今後、大事な相談は控えればいい程度の問題です。積極的なメンバーから見れば、もともと、意見を言わず、積極的な行動もできない程度の人ですから、このような、仲間の情報を漏洩するような、なさけない行動をするのです。


いいえ。わざと関与をさけて、何もしなかったのですね。いつでも、どちらにでも付けるように、態度をはっきりしないというのも、尾宅にとっての確固として選択した行動だったのです。意見を言わないのは「中立」とも、「賛成」ともまして「反対」とも違います。


自己保身の立ち位置の確保・・・。のためわざと、「判断をしない」  という判断のもとの行動なのです。


今後は信頼できる住民が一つにまとまればいいだけのことです。そんな、二人の会話する姿に、先輩住民たちが、気付きました。尾宅は何もしらず、まだ談話室に背を向けて長話の最中です。一瞬にして、談話室内の住民全員が空気を察しました。無言で尾宅への対応を目配せするのに、声に出した言葉はもはや必要ありませんでした。





2010/07/29 11:18:50

減額 呼出状

嘉子の創作「減額」の続きです。


法子さんとケイジ、そしてアパートの住民の話は、論理的に煮詰まりました。まずは、よく理解できない請求書を放置するのはやはりおかしい。文書で管理会社にこの不可解な請求の仕組みを質問しようということになりました。


代表者の名前は、永年このアパートに住んでいるという理由で、不思議な請求書に早い段階で気付いた先輩住民の一人にしました。先輩住民は快く大役を引き受けてくれました。質問への返事の期限は約1月以上をとり、住民たちは、どんな回答が来るのかを興味深く待つことにしました。


住民たちのほとんどは、世間話を、内偵の尾宅に探られていることを気付かず、過ごしました。そんな白熱する住民の話で、いつしか、常に一人冷静な尾宅にケイジは違和感を感じはじめました。尾宅が法子さんに向ける視線にも気付き始めました。職業柄、ケイジは尾宅の様子に目配せを怠らなくなりました。


締切日近くを迎えたある日のことです。管理会社社長から、先輩住民への個人宛で、手紙が来ました。中身は「○月○日○時に、説明しますから、管理会社の事務所に来てください。同日は取締役会がありますから、貴方の文書を見ながら取締役の社員全員で説明します。」というものでした。


質問状は、代表に先輩住民の名前を書きましたが、返事を求めているのは、アパートに住んでいるほとんどの人々です。しかし、呼出状は代表一人が出した質問状に、一人を相手にして口頭で説明すれは事足りる・・・。といったふうに読み解ける書き方でした。


全員で後で噛み砕いて検討できるように文書での説明を求めているのに、たった一人だけを事務所に呼んで、「多数で取り囲んで説明する」・・・。先輩住民に万一のことがあったら大変だ。


住民たちは請求書の回答に約1ヶ月間も返事がなく、ぎりぎりになった挙句に、代表を呼出状一枚で勝手に指定した時刻に、自分のテリトリーに呼びつける。一人を多人数で囲むというやり方をしようとする管理会社に憤りを覚え始めたのでした。意見は次々にとめどなく出ます。


みんなで出した文書だぞ。みなさんでぜひお越しいいただけませんか・・・。とか言ってこないのはどうしてなんだ!!代表以外のシタッパはいらなってことなのか?同じ家賃払ってるんだぞ!!説明するのも上だけかよ。同じアパートに住んでるんじゃないか。オレたちをえらく、低く見てくれたもんだよな!!


文書で質問したら文書で回答するのが世間の常識だろ!! 


ワケのわからないやり方をしているのは管理会社だぞ。そっちが段取りを組んで、アパート全部の住民に一人ずつ丁寧に通知して、アパートに出向いて、会合を開いて、説明会をして理解を求めるのが本来の姿じゃないか!!


1ヶ月もかけて文書でまともな回答すらできないワケでもあるのかよ。あいつらもしかしたら、あのお金を ピー ピー ピー (テレビとかの消去音を表現したつもり) しちゃってるんじゃないのかよ。


一枚の請求書の不審から、呼出状が舞い込み、さらに、管理会社の一般の感覚とのズレにあきれ返りました。住民が求める回答内容からは程遠く、ピントのはずれた、呼出状のせいで、深夜まで管理会社の疑惑についての話題でもちきりとなったのでした。


談話室の出入り口の向こうで尾宅が携帯で話始めたようです。そっと近くにケイジが後ろに立ったことを、尾宅は気付いてはいませんでした。






会社概要

会社名
(有)グラントップ
カナ
グラントップ
免許番号
宮城県知事免許(5)4809
代表者
山田 嘉子
所在地
9811107
宮城県仙台市太白区東中田2丁目1−38
TEL
代表:022-741-0730
FAX
代表:022-741-2335
営業時間
09:30〜17:30
定休日
土日・祝 毎週水曜日午後
夏季・年末年始・大型連休
最寄駅
東北線南仙台
バス乗車4分
バス停名東中田六丁目分
バス停歩3分
メール送信はこちら
ログイン
 


123

このページのトップへ