減額 役得への推理
嘉子の創作「減額・番外編」つづきです。
ヒラマは、委任状を管理会社の住民たちから預かっています。管理戸数ほぼ全所帯分ですから、かなりの数となります。地域活動に関心のある一部の住民はいます。でも、総会には原則として、班長が代表で参加するのが通例となっているシステムです。自分だけ、みずから慣例を破り、参加しに会場に入るのは相当な覚悟が必要となります。
結果的に一般の住民が、総会そのものに参加できるチャンスは何年かに一度となる現実があります。
ほとんどの住民は、めったに参加できないから、自治会活動について詳細な認識をする機会がありません。役員任せになりがちで、役員がもし、なあなあ体質だと、その厳格な自治会活動費の支出に意見をする人が出にくいという弊害があります。役員引き受け手は、あまりいない。役員は面倒なだけ。と表面上は住民に思われてがちです。いつものメンバーが何年間もボランティアに近い交通費のみで切り盛りしてくれているはずだ。と住民たちは思っています。
しかし、役員は交通費以外の実利がありました。名目の立つ方法で・・・。各地への出張、それにともなう旅費、各会合の参加に乗じた宴席、行事ごとの打ち上げなどに自治会費を使用する必要があります。行く先々で会うのはおなじみの仲良くなった方たちばかり。
そんなことの繰り返しのうちに、自治会活動のためなのか、自分達の楽しみの名目を作るのが主たる目的なのか?だんだんと判別しにくくなってきてしまうことさえあるのだろうな。とヒラマは推理しました。
「役得」の味を覚えてしまえば、その支出に歯止めがだんだんきかなくなります。いつのまにか自治会活動費は、役員たちの打ち出の小槌。自分達のお金のように錯覚し始めるという懸念もあります。
そんなメンバーの馴れ合いをくずし、最初は、少し異論がある役員がいたとしても、会長などに意見を述べる勇気はなし崩しに無くなっていくのが人情でしょう。自分自身もすこしずつ宴席の楽しさを覚えていくからです。
ヒラマは、この自治会の役員と管理会社の今後の関係を模索しました。
実は、この自治会の範囲内で、建設受注を控えた賃貸マンション計画があります。自治会長を敵にまわすと、またも、せっかくの建築計画に反対運動などの圧力を加えられる恐れがあります。どうしても管理会社の経営に影響する地元自治会とは仲良く穏便にするよう、管理会社社長からクギをさされているのです。
しかし、現在入居中の住民への配慮も必要です。安くて済む自治会費を、高く集金していたことがわかりました。事を放置すれば、いまどきの入居者が許すはずはありません。強烈なクレーマーが誕生してしまいます。自治会にはクレームせず、問題点に気付きながら、改善できなかったとして、管理会社の無能ぶりを標的にすることでしょう。
なんとかして、避けなければ・・・。今後の入居活動に悪影響し、空室になる懸念はさっさと食い止めなければなりません。完全な板ばさみ状態となりました。
ヒラマは意を決して立ち上がり質問を始めました。
「私は、管理物件の住民の皆様から委任をされています。委任する場合、住民の皆様は総会資料に表記上の問題点が無いものとして当社あてに委任をしてくれたものと思うのです。しかし、総会席上で表記に誤があることがわかりました。詳細説明は全住民に対して、ぜひとも必要と思います。総会資料を正規な表示にすること、自治連合会の決議内容確認を書面ですること、そののちに再度、総会を開催し、その上で採決を図る方法はありませんか。」
と問いました。
つづく
お問い合せ