減額 委任状の誤算
嘉子の創作「減額・番外編」つづきです。
ヒラマの発言を受け、自治会幹部が集まって話しを始めました。またも会場内はザワついています。いつまでたっても役員たちの話はまとまりません。ヒラマのような発言を想定していなかったためです。
役員たちのシナリオでは、欠席者の委任状の数を合計すれば、議場で反対されてしまったとしても、賛成多数でどんな議案であっても、執行部にとって、都合の良い形にして、局面は乗り切れる筈だったのです。
ただし、管理会社の賃貸物件に入居している、賃借人たちの頭数は、計算に入れるのをすっかり忘れてしまっていました。いままで、賃貸物件の入居者が、この自治会について意見をしたことなどほとんどといっていいほど、無かったからです。
賃貸の入居者は、住まいについて、執着はあまりありません。2年から3年程度の居住の後、それぞれの理由ー転勤、家の購入、学校の卒業などでこの、自治会のエリアからは無縁の人となっていきます。
ですから、自治会に対しても無関心。まして自治会の総会の存在すら意識したことはない居住者がほとんどでしょう。だから、自治会については 自治会費を支払うだけ。総会への委任状は、管理会社への委任という形で、管理会社が窓口となって回収しました。住民たちは、物件の管理会社なら自分達の都合を、味方してくれることが期待できます。住民はそれですべてを済ませてしまっている状態です。
ヒラマの所属する管理会社の入居者にかぎらず、一般の賃貸物件の入居者と、毎月重い負担の住宅ローンを抱えた、自己所有の戸建に住む人間との、大きな意識の温度差が原因で、トラブルが起きることもたびたびありました。
持ち家の人の参加が主流の自治会は、賃貸マンション建設に対して、常に圧力をかけていく方向へと活動を起こしてきていたのです。
自治会役員たちは思いました。
また、アパートの連中が問題ばかり起こしやがって。黙って私たちに任せていればいいものを。だいたい、自治会の仕事も引き受けない、活動にも協力もしない。めんどうな役割を、私たちに全部押し付けておいて、こういう、会議の時に限って、権利の主張だけは一人前以上にするなんて・・・。
まったくなにを考えているのだか!!
役員たちは、自分たちの活動の矛盾点を反省する方向に、頭は働きません。何をどうするのか、総会質問に対する答弁を考えなければならないはずの時間なのに、違う話に行ってしまっています。ですから役員たちの話は、ちっともまとまりません。
総会資料の矛盾点を指摘・質問されただけです。その矛盾点については、放置せずに、誤りを訂正した上で、仕切り直しをしませんか。というヒラマの提案です。
それなのに役員達は、発言をしたヒラマ。ヒラマの後ろに存在する管理会社。さらには、ほかの大家さんが経営するすべての賃貸アパート、マンションの入居者に対する細かな日常のストレスや、憎しみを思い出しました。さらにエスカレートして、ジャージのおじさん、パーマおばさん・・・。
一般の自治会員さんたちに対してまでも、憎しみに近い感情を一瞬にして芽生えさせてしまいました。住民たちに、許しがたいほどの「非」があるように、感じています。
この数時間のやりとりで、役員たちはすっかり錯覚をしています。根本の審議するべき問題をすり替えて、役員は協議しているのですから、話がまとまるはずはありません。そして、その方向を修正できる人物が、この日の議場の中の役員には、残念ながら居ないようです。
総会運営の問題点に対する、改善方法の模索や、仕事の方法への反省ではなく、憎しみの形にすり替えようとしてしまっている、人間の心の弱さがありました。
これも、持家派、賃貸派との違いのように、埋めにくい立場の違いによる、心の働きなのでしょうか。
つづく
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