減額 汚れちまった悲しみ
嘉子の創作「減額・番外編」つづきです。
ヒラマが手にしたコピーはかなりの枚数になるものでした。作業中だったためせっちゃんは書類の封書を手渡しただけで、風のように去って行きました。
興味はありますがすべての蛍光灯の点検を先に終えました。はやく文書を読みたい気持ちで、みるみるうちにスピードが速まりました。真剣に作業した甲斐があり、掃除で磨かれた物件は、すがすがしい清らかさになりました。
夜更けが早い冬の共同廊下の乾いた空気を照らす電気の光は作業前とはうってかわって「しまり」のあるものになっていました。
「人の心も、こんなふうにすっきりと掃除できたらいいのに。」最近の権力闘争に明け暮れる政治や、自治会や、自分の会社の人人のありように、若い正義感をもてあまし危惧しているヒラマは、年末の大掃除でそんなことを思い巡らしました。
汚れちまった悲しみに今日も小雪の降りかかる・・・・。
誰の詩だっけ?教科書かなにかで目にしたフレーズが脳裡に浮かびました。今日の天気にぴったりだなあ。どんな詩なのかその先が思い出せません。でも、強烈にそこだけが残っていました。
悲しみが汚れたなら、掃除すればいいじゃないか。きっときれいになるさ。そんな日本の年末の大掃除の風習がありがたく感じました。古い悩みもくるしみも、心の汚れだって、悲しみだって・・・。国中の人たちが真剣に大掃除すれば、きっときれいな新年の幕が開けるはずだ。
大掃除の仕上げ拭きに使用した雑巾をポイとバケツに放り込みました。真っ白い新品の雑巾に消毒用エタノールを含ませ、最後の箇所を拭き清めました。エントランスと共用廊下を分けるガラスドアの金色のドアノブと、オートロックの文字盤は、ヒラマが掃除した蛍光灯の光をキラリと反射しました。
来年の入居者を気持ちよく迎えるための、賃貸物件の新年準備が整いました。
つづく
※注釈 一部 中原中也 「汚れちまった悲しみに」を引用しました。
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