創作・自治会 C支援物資差し止め
嘉子の創作自治会続きです。※この話は架空の作り話です。実在のものとは一切関係はありません。
色をなした自治会長はあろうことか「自治会費を払わないなら支援物資の配給は中止しますし、この仮設住宅を退去してもらいます。」と言い出しました。隣の役場職員は黙ったままです。
福地は驚きのあまり絶句しました。どおして月会費の2000円をまだ払っていない程度のことでここまで話しが大きくなるんだ?
福地から見れば、何か月お願いしても、どおしても領収書を出せないお金をとるだなんて・・・・。そんなやり方について「不審の塊」と考えています。それを質した程度で退去をほのめかすだなんて・・・。だいたい、支援物資の差し止めをする権利がそもそも自治会の権限としてあるのだろうか?
そのあたりの法律関係について、仕事人間で自治や行政などの詳細な学習などする機会のなかった福地は根拠をすぐに提示できるはずもありません。ただ、感覚的に「おかしい」としか反論できません。
まず、仮設住宅や支援物資についてはどこから来てるのかを少し考えました。税金を払っている自分が国や都道府県や市町村や、そして世界中の善意の義捐金によって影日向で支えられている「絆」の象徴じゃないか・・・。と考えました。自治会費2000円で仮設が建築されるはずはないから、自治会所有のはずはない・・・。
どおして自治会長の意思でそんなことが決められるような、権力を振り回せるかのような話を持ち出すことができるのか・・・。前にもまして、ますます不審感を募らせました。
「私は、払わないのではないんです。払うなら明細を明らかにして使途の根拠を明示してください、という簡単なことをずっと一貫して言ってるだけなのですよ。この場で即、使途の明細を見せてくださって、あなたが領収書を町内会名で正式な手順を踏んで切るのなら耳をそろえて、まとめて払いますよ。」と強い口調で要求しました。
さらに続けます。「ここの仮設住宅自治会は、震災後に始まった1年以内の出来事でのことですよ。明細を示す程度のことで、何か月もかかること事態がおかしいじゃないですか。共益費の電気代や、その他の費用に充てるとおっしゃるなら、そのそれぞれの使用先の請求書とか領収書があるはずでしょう。なぜ見せないんですかっ。」と、毅然として切り返しました。
隣の役場職員はそんな二人のやりとりがもう何回目かはわからないくらいに呼び出され、日課となってしまっています。しかし今日は「退去せよ。」とついに出た自治会長の言葉で違う局面が始まったことを意識しました。訪問日数を重ねた甲斐がいよいよあったという判断なのでしょう。
「あの三月11日以来、俺はほとんど精神的に休まるときなんてないなあ。」と。悪夢はどこまで続くんだろう。仕事があるからまあ、この人たちよかずっとマシだろうけど、どこに向かえばいいのか、私にもわからない。」と内心思いました。
隣の二人はもはや、制止できないくらい心の中は喧々諤々の一歩手前の険悪さです。しかし法治国家で騒いだり手を出したら即、理由の如何以前に「負け」が確定するのです。どちらも上げ足を取られるような、そんな軽はずみはしません。
地域のよそ者として、なかなか打ち解けてくれない住民を理由をつけて追い出したくなってしまっている自治会長のストレスや、気持ちもまるっきりわからないではありませんでした。若者だって空気くらい読んでくれてるご時世なのになあ。と職員は思いました。この日本人の配慮が福地さんはまず、ないから・・・。と。
でもなあ。福地さんはよその仕組みをちゃんと知っているから、ここの「なあなあ」のやり方が不自然に感じるんだろうなあ。たしかにみんなで運営する組織なんんだから、総会をして、総会資料とか決算書や明細書を保管したりするのが当たり前。ここのやり方が、あまりにも杜撰であっさりしすぎかもなあ。
まあ、それでこのあたりはいいことになって代々続いていたんだし。細かいことを言わないので、気楽に仲良く暮らしていけているのだから、会長さんの言い分もないわけじゃないし。福地さんの言い分もわかるし。
どっちもどっちだろうなあ。とも思うのでした。
地域の実力者と同じ方向性の立場を表面上とるしかない担当者。ムラで生きるためにはみじんも自治会の杜撰経理に対する疑問は表情にださないよう努めていたのでした。
でないと、俺の母ちゃんとか爺ちゃんたちまで、ウワサされて巻き込まれたらかなわないからなあ。「会長さんさ、あんだいのムスコ、タテついたってよ。」なんて。若い職員は家族の顔が浮かびました。自治会長さんにさからって、めんどうかけたら親不孝だ・・・。
役場に帰った職員はとある弁護士事務所の電話番号をメモから見つけました。
つづく
創作・自治会 B冷たい玄関
嘉子の創作「自治会」続きです。※すべて架空のお話です。実在とは関係ありません。
「会費の明細と使い道をちゃんと話してください!!」と詰め寄る福地。一歩も福地は主張を引きません。
福地さんは何をそんなに疑っているのだろう?自治会長は思いました。
今日もわざわざ寒さをこらえ訪問した二人を、ただ、まじまじと見つめ不思議な標準語を羅列しています。福地の家には、見えないカーテンがあるように自治会長はずっと感じているのでした。
自治会長にとって福地は別世界の人のようです。あの震災以後、顔見知りだっただけの福地と接点をもってから、早くも一年近くなります。しかし、何度会っても親しくなるどころかますます遠くなるような気がします。
今日もやっぱりいつもどおりわかりあえそうもないな・・・。
自治会長はいつも、夏は暑い炎天下にさらされ、秋は突風にさらされ、冬の今日は寒い玄関先の戸外に立たされたまま話をさせられているのです。
いつもの「作業」・・・。ふっと自治会長は心を落ち着けるためにも自らを入りたての新入社員の研修に見立てガマンをしていました。とにかく異星人のような福地に、会費支払いをお願いするという説得をしたのだ、という「事実の数」を積み上げるしかありません。むなしい会話を続けていました。
ほかの住宅からの集金はすべてスムーズに終えているのです。ほかの人にしたように言えば支払うと思っていたのでした。自治会は私の裁量あればこそ自治会が運営できるのだ。全部私に任せて、会費だけ納めてくれればいいのだ。そんな自負があります。
どこに行っても「自治会長さん、ご苦労様です。お世話になっています。」と感謝されます。なじみの家がほとんどの小さな集落でした。子供のころから全員が顔なじみの仲良しです。
「ちょこっとよっていがい!!」と手すきの時には、温かい室内でこたつにあててもらいます。お手製の「おごご」(漬物の方言)が大好物の好みも知っています。訪問先の家族みんなで、旬の野菜の煮物と、漬物をいただきながら、熱いお茶を飲みながらのひと時が始まります。文字通り「おぢゃっこのみ」が彼の楽しみの一つであり仕事の一部でした。
さもない地域の世間話をしながら情報交換をしているうちに、自然に今後の要望が出たり、言い出しにくいこともなんとなく上手に聞き出すということができます。そうやって会話を通して地域の声を聞き取り行政とのパイプ役として生かしてきていたのです。
しかし福地だけは違いました。
まず、話すのは短刀直入に要件のみ。何か月かけても、何一つ福地とはどんな人となりなのかはまったくわかりません。そして会話ではよそよそしく漢字の言葉ばかり。なにをいっているのかまるで受験勉強の難問奇問のようなことばづかい。珍聞カンプンです。
わずか2000円の月会費。地域全員(福地を除く)で決めた金額のお金を一年近く経過してもビタ1円だって支払おうとすらしません。開くのは財布ではなくて文句と理屈ばかり・・・。です。会費や役員とかの決め方はなんとなく。
それでいいはずだったのです。江戸時代のむかしからそんなものでした。たぶん。阿吽の呼吸でいちいち書面なんてものを必要としたことなんか1度だって先祖代々ないのです。それでこの地域はうまくいっているのです。
払わない挙句に領収書をよこせとか、明細を見せてくれとかいちいち細かい注文をつけるのです。自治会長にしては、今迄だってずっとなあなあで村人は請求金額を払ってくれるのが当たり前でした。質問だってされたことなんかありません。
だいたい、人と話をするのに、「会長さん、うちさ上がってまず、お茶っこでも飲まねすか?」くらいの、お世辞も、お愛想もまず、ありません。何度会っても冷たい!!。今では誘われたくはないですが。
たった1歩すら玄関の仕切りをまたがせられないほどのことを私はした覚えはない・・・。と思うのです。書面がないことが、これほど役員らが粗末に扱われ、さも会費を役員らがどうにかしているかのような雰囲気で見られ、困らせられなければならないほどのことなのだろうか・・・。福地の態度はまるで住民らとの接点を拒むかのようです。
自治会長は言いました。「領収書を出せだなんていわれたこととは初めてです。」「払ってくださいと、ずっと言っているじゃないですか!!払わないならこちらも考えがありますよ。」
いろいろと、何度も何度もやり取りを重ねるうちに・・・。紳士だったはずの自治会長ですが、つい、語気が荒くなってしまってきました。なかなか支払いに応じない福地についに、自治会長が切れたのでした。
つづく
創作・自治会 Aよそ者
嘉子の創作「自治会」続きです。※この話はフィクションです。現実ものとは一切関係ありません。
福地は60代前半に、田舎暮らしにあこがれ、土地の坪単価が都会よりも破格に安い!!という理由でたまたま他県から定年後に東北地方沿岸のこの地に移り住みました。インターネットがつながる時代です。田舎でも世界の情報を知るのになんの不足もありません。
そんな動機できましたが、ほかも似たような場所はあったのでした。わざわざこの地を選んだのは、美しい自然と果樹のおいしさ、春先にはるか先に見える奥羽山脈の雪山の澄んだ景色が気に入りました。
比較すればやはり他の土地よりはずっと好きな場所なのでした。
ついの住処と心得た我が家。落ち着く間もなくこんなメに遭いました。住宅ローンはありません。退職金のほとんどをつぎ込み現金で購入しました。ですから、ほかの土地に新たに家を建てたり引っ越したりする余裕なんてまったくありません。震災前からすでに無職。再就職できる年齢ではありません。
震災により抱える問題は福地だって居住期間の長短にかかわららず、自治会のほかの人たちと同じ・・・、またはそれ以上にあるのです。
それなのに、たまたま被災した「よそ者」の福地の真剣な質問など、自治会長はまるで意に介さないようです。
いつもどおり、2000円の自治会費が高いのではないかと聞いても、のらりくらりとどうどうめぐりの説得を試みます。村はすべて代々自治会長やその親せきらが切り盛りしてきたのでした。
ふつうの自治会は月せいぜい300円程度。なのに半年分以つまり6倍以上もの月会費を請求されています。どおしてもおかしい・・・。福地には納得できませんでした。こんなに、会費が高い自治会なんとほとんどないじゃないか。
福地はインターネットや、同じ県のほかの仮設住宅などで集金されている自治会月会費の相場はとうに調べています。あまりにも突出してこの自治会だけが高いのです。
何かわけがあるに違いない。役場職員と毎度くるのもおかしい・・・。
つづく
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