無道路地 F
嘉子の創作続きです。※このお話は作り話です。実際の法律・名称・仕組みその他すべて架空のもので実在とは関係ありません。
おばちゃんの家が邪魔だと感じながらじっと通路を見つめるナギサ。ガラッっと縁側の戸が開き、おばちゃんが顔を出しました。「あんだ。まだいだのすか?」と、いつまでも立ち通しを不審に思ったのでしょうか。くぐもった声がかかりました。
「先ほどは、急にお邪魔をしました。驚かせてしまってすみませんでした。」とナギサは丁重に挨拶をしました。すると、おばちゃんは、びっくりしながらも態度を軟化させました。「いや、こっちこそ、いきなりだったから・・・。ごめんね。」と急に友好ムードになりました。
「ところで、初めて来たのすか?」
「はい。はじめてここに来たのですが、この通路。とっても狭いので車も入れないなあ。と思いまして・・・。」とナギサはやんわりと無道路地の核心・懸案に触れました。
するとおばちゃんはひそひそとあたりを確認してから話始めました。
「んだの。あんまりせまいがら、おらいのところと、あんだらいのおんちゃんの屋敷と少しとっかえっこしねすか?と不動産屋が何ぼも来たのに、あんだらいのおんちゃん。なんとしても嫌だってきかないから・・・。いい時に取り換えれば、おらいもそっちも、かなりいい値段でバブルの時は立派になったがも、しんねのにねぇ・・・。」と、なにやら含みがありそうな話をはじめたのです。
「えっ?叔父が嫌がってこのままになっているのですか?。」と聞き返しました。
「んだよ。でも、外では話されないの。あがらい。」とナギサを茶の間に通してくれました。
炬燵にあたりながら、何度も老人の行ったり来たりの繰り返しの話を辛抱強く聞きました。いつものナギサでは考えられないことです。
いつもは、老人の思い出話に付き合うなんて、時間がもったいない・・・。と冷たくあしらうことばかりの人生でした。でも、おんちゃんの死後あたりから心境の変化でしょうか。年齢のせいでしょうか。それとも、おばちゃんとの波長があったのでしょうか?繰り返しの昔語りも悪くない楽しさを感じる自分に驚きました。
「私とあんだらいのおんちゃんとの秘密なんだけど、あんだは相続人だから話ていいと思うの。」と前置きしてから、土地の秘密を打ち明け始めました。
「なんでも、道路にくっつけるように、とっかえっこしたどしても、この広い土地さは、なんだべ・・・。セシウムだがウランだがってものが昔埋まってて、家ば知らない人が建てると良くないとかなんだどっしゃ。」と驚愕の事実を語りました。
唖然とするナギサ。
「で、ウランを捨てる場所もないし、どこかに捨てて知らない人の手にわたったら危険だし、持っていることが見つかるとイマドキは面倒になるから・・・。」と苦渋の決断でここに埋めたままにしておくことにしたらしいということでした。
「わざとあんだらいのおんちゃんが人手に渡りにくくしてたんだどっしゃ。広いままにしておけば、近くに人は近づかないしね。親戚がらは、道路にくっつけないなんてってずいぶんあぎれられでだげっども。ウランのことまではわかんないんじゃないかなあ。道路のない土地なら相続人は誰も受け取らず、身内に迷惑かかんないかも。って考えもあったかもよ。」と他の親族に配慮した心境を聞かされました。
ナギサは「知らなかった私だけが貰っちゃったってわけね。」と自分の調査不足の甘さに愕然としました。
「なんでも昔薬品ば使う工場がここにあったんだか、おんちゃんが経営か働くかしてたんだか・・・。どこか、何のためにあの人が持つことになったんだかは話してくれなかったけど、とにかく "目に見えない毒" があそこにあんだどっしゃ。」とのことでした。
科学に疎いおばちゃんですが、毒はいけないものだということはわかる。そこで、子供や知らない大人たちが遊び半分で土地には容易に入らないようしなければならない・・・。土地への立ち入りをしにくくするため、狭い通路にした。
さらに、出入り口敷地を売却した。おんちゃんの敷地内に来る人には、出入り口のおばちゃんが目を光らせる。とにかく冷たくあしらうという取り決めをおんちゃんとした。
その門番がわりの対価として、破格の安値で土地を手にいれ、万一体調を崩したりしたらおんちゃんの世話をするという、内緒の取り決めをして相互扶助をしていたということのようでした。
ナギサはおんちゃんに対して腹立たしくなりました。
自分だけがいい話、儲け話だと食いつくのを見透かされたような恥ずかしさもありました。でも、それなら、なんでわざわざ私宛てに手紙を入れておいたのだろう・・・。おんちゃんにあきれながらも、真意はほかにもあるような不思議な感覚が目覚めました。
つづく
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