無道路地K 最終回
嘉子の創作つづきです。このお話は作り話です。すべて実在とは関係ありません。
探し物で小腹のすいたナギサは台所の戸だなをあさり始めました。夜に知らない街を歩くのは危険ですから、なにか食べ物はないかと物色してみました。すると、戸棚の奥に男所帯に似つかわしくない茶色のカメが見つかりました。2つあります。
なんだろう?と開けてみますと、ビニール袋にはいった手紙がありました。その下には梅干しがたくさんあります。年代物らしく塩が吹いています。ナギサは昔100年以上も前の梅干しでも食べことができるとテレビで放送されていたことを思い出しました。
手紙には「ナギサちゃん。ここにたどりついたね。隣のおばさんと話をしましたか?もしもセシウムとか毒の話をしていたとしたら、それは私の作り話です・・・。」とあります。要約すると勉強好きのおんちゃんは、世話好きの彼女に家の中を調べられたり、生活に立ち入られるのが面倒に感じた時期があったそうです。
そこでわざと家には毒がある・・・。毒の名前はわわかりにくいように、当時なじみのなかった見えないものだけど、もっともらしいことはなんだろうと考え、放射線関連のカタカナ文字のものを探して話たそうです。化学や薬品は疎い彼女のことです。うまいこと彼女に信じ込ませることに成功して、一人静かに勉強できる、他人がやたらとは近づかない個人の静かな空間を確保する方便だったそうです。
「最後に、道路にこの土地が接道していなくてもしも困っているのなら、彼女と話をすればきっと解決します。この土地を相続してくれた人が必ず彼女との接点を持って、僕の土地を仲立ちに君と新しい人とのつながりを始めてほしくて・・・。わざとそのようにしたのです。資産価値が一見してあると、どおしても資産を狙うことが目的で近づく人が出てしまいます。無価値にしておけば私に対して、「お金」ではなく、「好意のある人」しか来ないから。深く考えたうえで無道路地にしていたのです。どうか土地だけではなくて、僕の大事な人とのご縁が末永く続きますようにねがっています。きっと今後はナギサちゃんにとって助け合える関係が築ける人だと思い紹介します。絵本を読んであげた時の純粋な君の反応で、君こそが私と同じ波長を感じ理解してくれる人だと確信していました。どうぞ私の土地と私の大事にした人をよろしくお願いします。」
とあります。そして、もう一通となりのおばちゃん宛ての手紙が添えられていました。たぶん毒があると言って騙してしまっていたことをお詫びするものでしょう・・・。
自分用の手紙を読み終えたナギサはふうっと、力が抜けました。床にへたりこみました。そして、なんだか知らず、夜中の台所でひとりにやにやと笑い始めました。そしていつしか軽やかな笑い声をたてていました。
ったく。もう!!
おなかをすかしていたことを思い出し、カメから梅干しを一粒手づかみして、つまみ食いしました。塩辛く酸っぱい味は、老年のおんちゃんの恋の味のようにスリリングでしわくちゃだけど、ドキドキ感もありました。夜更かしをしているナギサをいきなり元気にしゃきっとさせました。
翌朝の朝日の中。広い敷地の中の古びた勝手口には木漏れ日のようにやわらかな光がさしていました。その中に二人の女性の姿がありました。泊りがけで調べものをしているナギサを心配して、「頼んでもいないのに」早朝に白いご飯を炊いておにぎりをたくさん握っておばちゃんが来てくれていたのでした。
おんちゃんが、つい、「毒」があると話してしまった行為をなるほどと、理解したナギサでした。
「ありがとうございます。朝ごはん。ご一緒にいかがですか?」とナギサはさそいました。するとうれしそうに、おばちゃんは「んで。・・・。おごごと、煮物ば、家からとってくっから。」と、踵を返してサンダルの音を高らかに響かせ戻っていきました。
おばちゃんに例の手紙を見せるのはご飯を食べた後にしようか、先にして例の梅干しをおにぎりのおかずにして食べようか?
などと、ナギサはの思いはそんなどっちでもよさそうなことを、二人分の味噌汁を作りながら考えていました。勝手口に湯気の立った田舎風の煮物や漬物をこんもりと山盛りにした小鉢などおいしそうな食べ物をお盆に乗せて新しいご近所さんが戻ってきました。
完
お問い合せ